大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大分地方裁判所中津支部 昭和49年(わ)11号 判決 1974年6月18日

被告人 小林清

昭二七・一一・一五生 農業手伝

主文

被告人を懲役八月および罰金五万円に処する。

この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収してある自動車運転免許証一通(昭和四九年押第八号の一)の偽造部分を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四六年一月二七日大分県公安委員会から普通自動車運転免許証(九四六九一八七〇三〇〇―〇〇九三号)の交付を受け、その後これを亡失して同年七月一二日同委員会から再交付を受けたが、同年九月一三日同委員会から右免許を取消されたものであるところ、

第一  昭和四七年一月中旬ごろ、宇佐市大字日足一、二五五番地の一の自宅において、前記亡失した免許証を発見したのに、すみやかに住所地を管轄する大分県公安委員会に返納しないで、昭和四九年二月二二日まで不法に所持し、

第二  昭和四九年一月二〇日ごろの午後九時ごろ、宇佐市大字上田一、七〇四番地の三浦正嗣方において、行使の目的をもつて、ほしいままに、同人から譲り受けた「昭和四九年一月一二日更新手続中大分県公安委員会」と記入された運転免許証の備考用紙を、予め備考用紙を剥ぎ取つてあつた折たたみ式の自己の前記免許証(有効期限は「昭和四九年一月二六日」と記載されている)の備考欄にはさみこみ、あたかも自己が右免許証の更新手続中で、免許が有効であるかのような外観を整え、もつて大分県公安委員会の記名押印のある同公安委員会作成名義の自動車運転免許証一通(昭和四九年押第八号の一)の偽造を遂げた上、同年二月二一日午後一〇時ごろ、同市大字大根川、大根川バス停留所付近道路において、警ら中の宇佐警察署司法巡査嶋崎誠治に対し、右免許証を真正に成立したもののように装つて呈示して行使し、

第三  公安委員会の運転免許を受けないで、

一  昭和四九年二月二一日午後一〇時ごろ、宇佐市大字大根川、大根川バス停留所付近道路において、普通乗用自動車を運転し、

二  同年同月二二日午前九時四五分ごろ、大分県宇佐郡院内町大字斉藤一八の五番地先道路において、普通貨物自動車を運転し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は道路交通法一二一条一項九号、一〇七条一項三号に、判示第二の所為のうち有印公文書偽造の点は刑法一五五条一項に、同行使の点は同法一五八条一項、一五五条一項に、判示第三の一および二の各所為はいずれも道路交通法一一八条一項一号、六四条にそれぞれ該当するが、判示第二の自動車運転免許証偽造とその行使との間には手段結果の関係があるので、刑法五四条一項後段、一〇条により一罪として犯情の重い偽造公文書行使罪の刑で処断することとし、判示第一、第三の一、二の各罪については所定刑中罰金刑をそれぞれ選択し、以上は同法四五条前段の併合罪なので、懲役刑については犯情を考慮して同法六六条、七一条、六八条三号により酌量減軽をした刑期の範囲内で、罰金刑については同法四八条一項によりこれを右懲役刑と併科することとし、同条二項により判示第一、第三の一、二の各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で、被告人を懲役八月および罰金五万円に処し、懲役刑については情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、押収してある自動車運転免許証一通(昭和四九年押第八号の一)の偽造部分は判示第二の偽造公文書行使の犯罪行為を組成した物で、何人の所有をも許さないものであるから、同法一九条一項一号、二項によりこれを没収することとする。

(判示第二の所為について、公文書偽造罪の成立を認めた理由)

本件は、判示のとおり、被告人において「昭和四九年一月一二日更新手続中大分県公安委員会」との文言が記載されている他人の運転免許証の備考用紙を譲り受けて、これを自己の運転免許証の備考欄にはさみこんだものであるが、一般に既存文書の本質的部分を変更して別個のあらたな文書を作出する行為も偽造の範疇に属するものと解せられるので、備考欄の右記載部分が本件運転免許証の本質的部分であるか否かについてまず考えるに、免許証の更新の際には、手続上新免許証の交付が旧免許証の有効期限より後になる場合が往々にしてあることから、旧免許証の備考欄に前記文言を記載することによつて、その有効期間経過後も新免許証交付までの間は暫定的にこれをもつて新免許証に代用することを得るものとしているのであるから、前記記載部分が本件運転免許証の重要な本質的部分をなすものであることは明らかであるというべきである。

ところで、偽造罪が成立するためには、偽造された文書が一般人をして作成権限者がその権限内において作成したものであると信じさせるに足る程度の形式、外観を具えていることが必要であるところ、本件における被告人の行為は、前述のとおり他人から前記文言の記載されている備考用紙を譲り受けて、これを自己の運転免許証にはさみこんだだけで、接着剤等によつて免許証本紙備考欄に貼り付けるまでのことはしていないのであるが、押収されている本件運転免許証(昭和四九年押第八号の一)を見ると、右免許証は折たたみ式であつて、裏表紙の裏面の免許事項欄の用紙の上には透明ビニール製被覆が施されているのに、表紙の裏面の備考欄の用紙にはこれが施されていないために、備考欄の方が免許事項欄に比べれば何らかの事情によつて剥離する可能性は格段に大きいものというべく、従つて免許証に前記備考用紙をはさみこんだだけでも、外観上これが呈示を受けた一般人をして、備考用紙が免許証の備考欄から人為的工作によらず、自然剥離したに過ぎないものであつて、両者はなお一体のものであると信じさせるに充分であると認められる。

このことは、判示第二の日時場所において、被告人が本件偽造にかかる免許証を警ら中の警察官に呈示して行使した際にも、警察官は備考用紙が剥離していることよりも、有効期限より二六日間も経過しているのになお新免許証の交付を受けていないことに不審を抱いたものであることからも明らかである。(前掲の捜査報告書(略)参照)

以上述べた理由により、被告人の本件運転免許証の改ざん行為は、公文書偽造に該当するものと解するのが相当である。

よつて、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例